「今期のKPI、達成しましたか?」
この問いが組織内で日常化したとき、それは危険信号かもしれません。
KPI(重要業績評価指標)は、うまく使えばチームの共通言語になります。
しかしその“扱い方”を誤ると、組織の関係性そのものを壊すものにもなり得るのです。
KPIは本来、「目的に向かう進捗を測るための指標」です。
ところが多くの現場では、KPIそのものが目的化し、「この数字を追え」という圧力に変わっていきます。
本来の“目的”は曖昧なまま、“KPI達成=仕事ができている”という単純な構造に陥ってしまうのです。
これは、**「考えなくてもいい構造」**を生み出します。
意味を問わず、数字を追うだけなら、責任も創造性もいらなくなる。
だからこそKPIは、思考停止の制度装置として機能してしまう危険があるのです。
KPIを達成することが目的となり、本来の顧客価値や行動原理が見えなくなる。
指標が個人評価に直結すると、協力よりも“自分の数字”を守る行動が優先される。
「KPIにないからやらない」「KPIに反するからできない」と、新たな挑戦が止まる。
私が関わる現場では、KPIを導入する際に必ず問う言葉があります。
「この数字を追うことが、何のためになるのか?」
この問いへの答えが曖昧なままKPIを設定すれば、現場は「数字の奴隷」となり、むしろ生産性は下がっていきます。
KPIとは“会話の起点”であって、支配の道具ではない。
その背景にある「なぜ」「何のために」を繰り返し確認し合える関係性があって、はじめて指標は生きた道具になります。
既存のKPIを壊す勇気がある組織ほど、柔軟で強くなります。
数字を超えて問いを立て直すことで、本来の意味とつながった判断が生まれる。
KPIの再設計とは、組織の思考習慣そのものの再設計なのです。
KPIは組織を導く光にも、見えない檻にもなり得ます。
それを分けるのは、「数字をどう扱うか」という姿勢と、意味を問う文化の有無です。
あなたの組織のKPIは、問いを開いていますか?それとも、問いを閉ざしていますか?