「工場稼働率が上がれば固定費が下がる」というお話は、会計の本にもたびたび登場します。
しかし、それは本当に「正しい」のでしょうか?
地代家賃・人件費・減価償却費──こういった固定費は、稼働率が上がっても原則として変動しません。
正しくは「製品1個あたりに配賦される固定費が減る」というだけの話です。
この「割り算のマジック」によって、なんとなく利益が増えている ように見える状態。
これは、企業の意思決定を曇らせる構造です。
採算性の錯覚
製品Aが本当に利益を出しているのか、配賦のトリックで見えなくなる。
在庫の正当化
とりあえず作っておけば稼働率が上がる=固定費単価が減る、という誤解から在庫を積み上げる。
意思決定の遅延
本来は売上に直結する判断をすべき場面で「配賦率が……」と迷い始めてしまう。
スループット会計の視点では、
「その製品を今1個売ったら、会社のキャッシュは増えるか?」という問いが最重要です。
固定費をどう割るかではなく、今ここでボトルネックに何を流すかという視点が、
意思決定を劇的にクリアにします。
すべてを原価に割り当てて「効率よく帳尻を合わせる」よりも、
不要な数字を切り捨ててでも、早く正しい判断をすること。
それがそもそも経営者に求められるスタンスなのではないでしょうか。
「固定費が下がる」という言葉に安心しないこと。
「なんだかよくわからないがそう聞いてきた」と判断停止しないこと。
本当の利益は、「意思決定に役立つ構造」を見抜くことから始まります。
意味を問い、仕組みを見直す。その思考こそが、これからの再設計です。