生産管理とデータ

管理会計と生産管理をつなぐために、工数データで決めておくこと

石山祐己
#生産管理#管理会計#工数管理#データ設計
基準工数、初回実績、再製作実績を分けて意思決定につなぐ流れのイラスト

工数を入力し、月ごとに合計している。それでも、見積りを直すべき受注や、手戻りが発生している工程が分からない。こうしたときは、集計画面を増やす前に「何のための工数か」と「何を一つとして比べるか」を決める必要があります。

この記事では、見積りの見直し手戻りの把握を例に、工数データを判断へつなぐための設計を整理します。数値例はすべて説明用の架空データです。ここで示す規則は一つの設計例であり、すべての会社に共通する唯一の正解ではありません。

予定・基準・実績を同じ「工数」にしない

最初に、似た言葉の役割を分けます。

種類 この記事での意味 主な用途
基準工数 製品や工程を比較するために、あらかじめ定めた時間 見積りや工程設計の前提を見直す
予定工数 今回の人員・設備・納期を踏まえた実行計画 日程や負荷を調整する
実績工数 実際の開始・終了や作業区間から集計した時間 差の発生箇所と理由を確かめる

基準10時間、予定12時間、実績11時間なら、「予定より早い」と「基準を超えた」は同時に成立します。三つを一つの欄で上書きすると、計画の評価と見積りの評価が混ざります。

また、工数は原価や利益そのものではありません。人や設備の費用をどの期間・範囲へ配るかによって原価の意味は変わります。短期の作業判断と、中長期の能力・固定費の判断を分ける考え方は、稼働率を上げても固定費は下がりませんでも扱っています。

受注と製造の実行単位を分ける

顧客から受けた仕事を「受注」、現場で製造を実行する単位を「作業指示」とします。一つの受注を最初から作り直した場合、受注数量を二重に増やすのではなく、同じ製作意図に対する再製作として関連付ける方法があります。

この区別がないと、次のどちらかが起こります。

  • 再製作の時間が最初の実績へ上書きされ、手戻りが見えなくなる
  • 再製作のたびに基準も加算され、実績が常に基準内に見える

今回の設計例では、最初の作業指示にある基準を受注の比較基準とし、後続の再製作では同じ基準を足しません。一方、実績は初回と再製作の両方を累積します。

累計実績工数 = 初回実績工数 + 再製作実績工数

基準10時間、初回実績10時間、再製作実績2時間なら、累計実績は12時間、実績/基準は120%です。これは稼働率、利益率、改善率ではありません。設定した基準に対して、同じ対象範囲の実績がどれだけ発生したかを示す比較値です。

架空データの工数比較デモでは、通常、再製作あり、基準未設定の三つを切り替え、この計算を試せます。

基準が足りないときは、比率を出さない

加工と検査を対象にするのに、加工の基準だけが設定されている場合、設定済み分の合計は参考値にできます。しかし、その値を受注全体の実績で割ると、分母と分子の範囲が一致しません。

そのため、今回の例では次のどちらかに当てはまれば、受注全体の比率を算出しません。

  1. 対象工程の基準が一つでも未設定
  2. 比較用の基準合計が0時間

未設定は0時間ではありません。「まだ決めていない」と「時間がかからない」は別の状態です。比率の代わりに、対象工程数、設定済み工程数、足りない工程、設定済み分の参考合計を表示すれば、次に整えるデータが分かります。

記録する項目は、計算から逆算する

見積りの見直しと手戻りの把握に絞るなら、少なくとも次の関係を追えるようにします。

項目 分ける理由
受注ID 顧客から受けた仕事と数量を一つにする
作業指示ID・実行回 初回と再製作を区別する
工程ID・工程順 差や手戻りが発生した場所をたどる
対象数量 単位工数を受注全体へ換算する前提にする
単位基準工数 数量変更と工程ごとの基準を分ける
予定開始・終了 実行計画と実績を比較する
実績開始・終了 実際の作業区間を集計する
実績種別 段取りと作業、初回と再製作を分ける
訂正日時・訂正理由 後から変わった数字を説明できるようにする

段取り時間を製品数量に比例させるか、作業時間だけを比較するかは、工程と判断目的によって変わります。まずは「この比較に含める時間」を明記し、画面、集計、説明で同じ範囲を使います。

入力を増やす前に、運用を決める

項目を細かくするほど、入力負担と欠損の可能性も増えます。現場で続けるには、次の四点をデータ項目と一緒に決めます。

誰が、いつ記録するか

開始・終了をタイマーで記録するのか、作業後にまとめて入力するのか。複数人で同じ工程を行う場合に人数分を工数として足すのか。入力方法が違えば、同じ1時間でも意味が変わります。

訂正をどう残すか

入力ミスを直せることは必要ですが、過去の集計が説明なく変わると判断に使えません。訂正前後、理由、時点を残し、どの締め時点の数字を見ているか分かるようにします。

欠損をどう見せるか

空欄を自動的に0へ変えず、未入力、対象外、基準未設定を分けます。欠損を隠さない表示は、データを責めるためではなく、比較可能な範囲を明らかにするためにあります。

集計時点をそろえる

進行中の工程では、実績時間が増え続けます。画面を開いた時点、日次締め、月次締めなど、どの時点の値かを示します。後から確定値と比較できる設計にすると、速報と正式集計を混同しません。

小さな一つの判断から実装する

工数管理を始めるとき、全工程・全指標を一度に整える必要はありません。

  1. 「見積りを見直す」など、変えたい判断を一つ選ぶ
  2. 判断に必要な基準・実績・対象範囲を言葉で定義する
  3. 現在の記録で計算できるか、欠損と訂正方法を確かめる
  4. 一つの受注と少数工程で、表と比較画面を作る
  5. 実際の会議や見直しで使い、次の行動につながったか確認する

AIや集計・可視化の道具は、この土台ができてから選びます。意味の異なる数字を集めたままでは、きれいなグラフや要約が誤解を速めることがあります。在庫・生産・会計それぞれの更新元を分ける考え方は、在庫管理・生産管理・会計システムをつなぐデータ設計で説明しています。KPIを目的から切り離さない考え方は、KPIという言葉が組織を壊すときにもつながります。

改善計画では、管理会計・生産管理の論点整理から、データ定義、集計画面、業務システムへの実装までを一つの流れとして扱います。管理会計・生産管理とデータ活用の支援内容をご覧ください。自社の工数・原価・生産データを、判断に使える形へ整理したい場合は、現在の困りごとからご相談いただけます