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意味と仕組み

工場の稼働率を上げても固定費は下がらない|原価・利益・資金繰りの違い

#スループット#原価計算#経営会計#意味設計

独自ダッシュボードを体験

現場の数字を、動かしてみる。

忙しくなった現場に、利益とお金は残るでしょうか。
生産・販売・回収の条件を変えて、その違いを確かめてください。

架空の工場1か月のシミュレーション単一製品 / 正常操業度 1,500個
まずは、4つの場面を比較選択すると全条件を切り替えます

今月の見え方

生産だけ増やす
利益

400万円

基準比 +100万円

在庫に残る費用を考慮

現金収支

+100万円

基準比 −200万円

今月の入金 − 支払い

月末の在庫

500個

帳簿価額 300万円

作った数 − 売った数

基準比:生産・販売とも1,000個の場合。同じ単価・費用・回収率で比較します。

01条件を動かす

生産・販売の条件
個
今月、工場で作る数上限 1,500個
個
今月、売上になる数上限 1,500個

期首在庫0。販売できるのは、今月作った数量まで。

%
残りは売掛金として翌月以降へ上限 100%
単価と費用も変えてみる
円/個
製品1個の売価上限 30,000円/個
円/個
1個作るごとにかかる費用上限 20,000円/個
万円
生産量によらず当月に支払う費用上限 1,000万円

02利益から、現金をたどる

単位:万円

在庫と未回収代金の分だけ、現金になる時期がずれます。

固定費は、総額と単価を分けて見る

同じ費用を、何個で割るか
固定費総額300万円
生産数量1,500個
1個あたりの平均負担2,000円

生産数量 ÷ 正常操業度:100% 設備の時間稼働率とは別の比率です。

利益は100万円増加。でも、現金収支は200万円減少。

固定費のうち100万円が在庫に残ります。生産だけ増やしても、販売と回収が増えなければ資金は増えません。

計算の前提・根拠を確認する

本文の架空例を動かす簡略モデルです。正常操業度は1,500個で固定し、生産量はその範囲内としています。期首在庫・期首売掛金・仕掛品はなく、全量が良品。変動製造費・固定製造費は全額を当月支払い、売上の未回収分だけが売掛金になります。

減価償却、販売管理費、税金、利息、設備投資、借入・返済、在庫評価減は含みません。実際の企業の利益や資金を予測するものではありません。

固定費の配賦率
固定製造費 ÷ 1,500個
当期の利益
売上 − 販売分の製造原価 − 未配賦固定費
在庫の帳簿価額
在庫数量 ×(変動製造費単価 + 固定費配賦率)
現金収支
売上 × 当月回収率 − 生産数量 × 変動製造費単価 − 固定製造費
現在の条件の計算内訳(円)
項目金額
売上高10,000,000円
販売した製品の原価6,000,000円
未配賦固定費の当期費用0円
在庫に含まれる固定費1,000,000円
当月回収額10,000,000円
変動製造費の当月支払額6,000,000円
固定製造費の当月支払額3,000,000円
売掛金(当月の未回収分)0円

表示は四捨五入しています。上段の「1個あたりの平均負担」と、正常操業度に基づく在庫評価の配賦率は別です。生産量の変化だけで固定費総額は変わりません。

架空データの体験版です。入力した内容は保存・送信されません。

「工場の稼働率を上げれば、製品1個あたりの原価が下がる」。この説明には、前提をそろえれば正しい部分があります。同じ固定費を多くの製品で負担すれば、1個あたりの金額は小さくなります。

ただし、1個あたりの固定費が下がること、会社が負担する固定費総額が減ること、利益が増えること、手元資金が増えることは、それぞれ別です。 作った製品が売れずに在庫になれば、単位原価が低く見えても資金繰りは厳しくなることがあります。

この区別は、工場以外でも大切です。店舗やサービスの現場、受託業務でも、対応件数や稼働時間の増加が、利益や入金の増加にそのままつながるとは限りません。ここでは違いを具体的に追えるよう、工場を例にします。在庫評価の計算はこの例に固有ですが、固定費・利益・現金を分けて見る視点は、ほかの業務にも通じます。

この記事では、この違いを架空の数値例で整理します。冒頭の生産とお金のシミュレーターでは、生産・販売数量や費用、当月の回収率を変え、利益と現金収支がどう動くかを試せます。さらに、独自ダッシュボードで何を並べ、計算の根拠や記録の状態をどう確かめられるようにするかを考えます。

操作と計算規則をまとめて確認する場合は、利益と現金収支の違いを試す管理会計デモをご覧ください。

稼働率で変わるのは、固定費総額か、1個あたりの負担か

固定費は、対象期間と設備・人員体制の範囲を決めたときに、生産量や対応件数などの活動量が増減しても、総額が変わりにくい費用です。たとえば、同じ設備・勤務体制を維持する1か月の工場や店舗の賃料、定額法による減価償却費が該当します。

人件費のすべてを固定費とは決められません。通常の月給部分と増産のための残業代では、判断に伴う増え方が異なります。設備を増設したり、勤務体制を変えたりすれば、固定費の水準そのものも変わります。

同じ製品を作る工場で、月の固定製造費が300万円、生産数量が1,000個から1,500個へ増えたとします。以下の数値は、すべて説明用に新しく作った架空例です。

比較する数字 生産1,000個 生産1,500個
月の固定製造費総額 300万円 300万円
固定製造費総額 ÷ 生産数量 3,000円/個 2,000円/個
固定製造費総額の削減額 — 0円

1個あたりの平均負担額は1,000円下がります。しかし、家賃などの契約や必要な資源を変えていないので、総額は300万円のままです。この割り算は平均負担額の比較であり、そのまま決算上の在庫評価に使う配賦率を意味するものではありません。

また、設備が長く動いていても、不良や再製作が増えていれば良品は増えません。稼働率を見るときは、「何の設備の、どの時間を分母にした割合か」と、良品数量・販売数量を併せて確認します。

売れない増産で、利益と手元資金が違う方向へ動く

固定費を製品へ配賦することには、製品原価や棚卸資産を計算する役割があります。注意したいのは、その数字だけで「増産すべきか」を決めることです。

全部原価計算では、製造にかかった固定費の一部が期末在庫に含まれ、販売時の費用へ回ります。そのため、販売数量が同じでも、生産数量と在庫の増減によって当期利益が変わることがあります。

在庫500個を増やすと何が起きるか

先ほどの工場について、次の条件を置きます。

  • 販売単価は1万円、1個あたりの変動製造費は4,000円。
  • 通常の状況で、計画保全なども織り込んだ平均的な生産量である「正常操業度」を月1,500個とし、固定製造間接費300万円を1個あたり2,000円で配賦する。
  • 期首在庫と仕掛品はなく、完成品はすべて良品。在庫の評価減はない。
  • 売上代金は当月回収し、変動製造費・固定製造費も全額を当月に現金で支払う。
  • この例では減価償却費を含めず、販売管理費、税金、利息、設備投資、借入・返済などは省略する。

正常操業度を基準に配賦し、低操業で配賦しきれない固定製造間接費を当期費用にする考え方は、IAS 2「棚卸資産」第13項(新しいタブで開きます)を参照しています。ここでは仕組みを説明するために採用し、すべての企業に同じ会計処理を当てはめるものではありません。

当月の比較 A:作った分を販売 B:生産だけ増加
生産数量 1,000個 1,500個
販売数量 1,000個 1,000個
期末在庫数量 0個 500個
売上高 1,000万円 1,000万円
販売した製品の原価(1個6,000円) 600万円 600万円
配賦しきれない固定費の当期費用 100万円 0円
この例の利益 300万円 400万円
期末在庫の帳簿価額 0円 300万円
当月の現金収支 +300万円 +100万円

Aでは、固定費のうち200万円が販売した製品の原価に含まれ、残る100万円も当期の費用です。Bでは、固定費のうち100万円が売れ残った500個の在庫に含まれます。この違いによって、Bの当期利益は100万円多くなります。

一方、Bは追加の500個を作るために、変動製造費を200万円多く支払っています。回収する売上代金は同じなので、現金収支はAより200万円少なくなります。利益の100万円増加は、固定費の削減でも、売上代金の増加でもありません。

在庫に含まれた費用は、その後の販売時などに費用になります。売れなくなれば評価減や廃棄の検討も必要です。在庫を持つこと自体の是非は、納期、需要、段取り、欠品リスクを含めて判断しますが、稼働率や単位原価だけでは決められません。

増産した分も売れるなら、利益は増やせる

Bの1,500個をすべて同じ単価で販売・回収できれば、売上は1,500万円、変動製造費は600万円、固定製造費は300万円となり、この例の利益・現金収支はいずれも600万円です。

Aと比べて300万円増える理由は、追加販売500個から、変動費を差し引いた1個6,000円が得られるからです。固定費総額が減ったわけではありません。現実には追加の残業、運賃、外注、値引き、回収条件なども確認します。

短期の受注判断と、固定費を変える判断を分ける

明日の空き時間に追加注文を受けるかという判断と、来年の設備・人員体制をどうするかという判断では、動かせる費用が異なります。

空き能力があり、既存の注文を押し出さずに対応できるなら、まず追加売上と、その注文で追加発生する材料費、外注費、残業代、配送費などを比較します。共通固定費を配賦した後に赤字と表示されたことだけでは、受注を断る理由は決まりません。反対に、追加収入が追加費用を上回っていても、納期や品質を守れない注文なら別の問題があります。

中長期には、設備の更新、人員の配置、保全、賃料なども回収できる事業構造が必要です。通常の価格設定では、短期の追加費用だけでなく、商品構成と販売量を含めた事業全体で固定費まで回収できるかを確かめます。固定費の削減を検討するなら、契約、設備、勤務体制をいつ変更できるかと、その後も必要な能力を残せるかを見ます。

工数の短縮も、そのまま人件費の削減額にはなりません。 月給総額が変わらなければ、まず生まれるのは空き時間です。その時間を追加販売、残業の削減、納期の改善、保全や育成へどう使うかまでが経営判断になります。

工数の基準・実績と再製作を区別する方法は、管理会計と生産管理をつなぐために、工数データで決めておくことで説明しています。

全設備の稼働率より、制約工程から得られる利益を見る

生産全体の流れを制限する工程を、制約工程、あるいはボトルネックと呼びます。検査が1日100個までなら、その手前で150個加工しても、検査の能力が変わらない限り、その日の完成・出荷は同じようには増えません。手前の設備の稼働率は上がっても、仕掛品と待ち時間が増える可能性があります。

同じ構造は、受託業務の最終確認や、サービス提供の専門担当者に仕事が集中する場面にもあります。受付や着手を増やしても、最後まで完了できる量が増えなければ、待ち案件が積み上がります。

販売需要がある複数の製品で制約工程を取り合うなら、「1個あたりでいくら残るか」に加えて、「制約工程の1分でいくら残せるか」を見ます。

スループットと限界利益、現金残高は同じではない

限界利益は売上から変動費を差し引いた額です。何を変動費にするかは、費用の動き方と対象期間に合わせて定めます。

TOC(制約理論)のスループット会計では、売上から完全変動費を差し引いた額に着目します。典型的な短期の説明では直接材料費を控除し、労務費などを期間の業務費用として扱います。これは労務費が常に一定という意味ではなく、その判断期間で何が変わるかという仮定です。ACCAのスループット会計の解説(新しいタブで開きます)も、この前提と制約資源あたりの収益を扱っています。

次は、直接材料費だけが完全変動費で、ほかの業務費用は変わらない架空例です。

製品 売価 − 直接材料費 制約工程の時間 制約工程1分あたり
X 6,000円/個 10分/個 600円
Y 4,000円/個 4分/個 1,000円

1個あたりではXが大きくても、制約工程の1分あたりではYが大きくなります。需要上限、納期、品質、段取り、材料調達などの条件が同じなら、Yを優先する判断材料になります。制約が複数ある場合や段取りが大きく変わる場合は、この比率順に並べるだけでは生産計画は決まりません。

また、販売しても入金が翌月なら、売った時点で預金残高は増えません。スループットも限界利益も、入金日・支払日を織り込んだ現金残高とは分けて管理します。

数字を判断につなぐ、会計システムの設計

会計システムを設計するときは、合計値を作ることに加え、「何から計算した値か」「まだ決まっていない値か」「いつの条件で比較した値か」を確かめられることが重要です。固定費や稼働率を判断する画面でも、次のように記録と根拠を分けて考えられます。

未入力を0円にしない

材料費や外注費が未入力なのに0円として売上から差し引けば、利益が過大に見えます。同じように、生産や対応件数の実績が未取得なのに0件とすれば、稼働していなかった月に見えてしまいます。

会計システムでは、未入力と明示的な0を区別し、必要な値がそろわない指標には、未入力や計算できない理由を示す設計が考えられます。独自ダッシュボードでも、数値の横に未入力・確認待ちなどの状態を示し、不足する数字を探せるようにすることが大切です。

合計値から、対象月の入力と計算根拠へ戻れるようにする

財務報告書の取込版、部門別の入力、月次計算の結果と根拠は、分けて扱えます。売上や経費の合計が合わないときに、再取込、入力訂正、集計対象の違いを追えるようにするためです。

固定費の比較も、合計の折れ線だけでは十分ではありません。増えたのは賃料か、残業か、減価償却か。対象月が違うのか、未計上なのか、費用の分類を変えたのか。総額から内訳、元の記録までたどれると、数字の変化を具体的な確認や行動へつなげられます。

部門が別の事業部へ移った場合には、「当時の所属での実績」と「同じ部門を継続して追う比較」も区別して設計します。組織変更だけで、ある事業部の固定費が減ったように見えるためです。設定の適用開始月や、比較に使う組織の基準を残すことが欠かせません。

利益と、返済後に残る資金を分ける

会計システムを設計するときは、管理会計の損益と、資金の実績・借入返済予定を別の情報として扱います。返済予定を、実際に支払った金額へ無条件に置き換えないためです。

減価償却費は利益計算に影響しますが、当月に同額の支出が起きるわけではありません。借入元本の返済は資金を減らしますが、損益計算上の費用とは別です。設備購入にも、購入時の支払いと、その後の期間へ配分する費用という違いがあります。

したがって、利益が出ていることだけで返済や設備投資に必要な資金が足りるとは判断できません。売掛金の回収、仕入代金の支払い、税金、投資、借入・返済を時期とともに確認します。減価償却費のような非資金費用や運転資金の変動を利益から調整する考え方は、IAS 7「キャッシュ・フロー計算書」(新しいタブで開きます)でも説明されています。

独自ダッシュボードで、稼働率と一緒に確認する数字

こうした知見を現場の判断画面へ応用するなら、稼働率の大きなメーターを置く前に、次のような対応を考えます。工場なら生産と出荷、受託業務なら着手と完了というように、仕事が売上・回収へつながる流れに沿って数字を並べます。これは記事のために整理した画面の設計例です。

判断したいこと 一緒に見る数字・状態
現場の活動が売上につながったか 生産・対応件数、出荷・完了件数、販売数量、売上高
途中や未販売の仕事がたまっていないか 仕掛品・製品在庫、未完了案件、滞留期間、受注や納期との対応
どこを改善すれば出荷・完了を増やせるか 制約となる工程・担当の負荷、待ち、停止、不良、やり直し
固定費そのものが変わったか 固定費総額、費目別内訳、契約・能力の変更
追加注文が何をもたらすか 追加売上、追加費用、制約工程の時間、既存注文への影響
支払いに必要な資金が足りるか 預金残高、回収・支払予定、設備投資、借入元本返済

たとえば「稼働率は上昇、販売数量は横ばい、在庫は増加」という並びなら、増産の理由と出荷予定を確かめます。「稼働率は低下、良品の出荷は維持、再製作が減少」なら、単純に悪化とは評価できません。

画面を絞り込む条件にも注意が必要です。製品だけを選択した際に、売上はその製品へ絞られ、共通固定費は工場全体のままなら、表示された差額を製品利益とは呼べません。共通費を別表示にするのか、定めた基準で配賦するのかを決め、対象期間・部門・製品の範囲と計算条件を画面上で確かめられるようにします。

同じ月でも、会計の締め値と、今日更新した生産実績では確定状態が異なります。対象月、データ更新時点、締め済みか暫定か、比較条件を添えることが、グラフの見栄え以上に重要です。正本や履歴をシステム間でつなぐ方法は、在庫管理・生産管理・会計システムをつなぐデータ設計で詳しく扱っています。

稼働率の目標を見直すときの確認順序

現在の稼働率目標や原価管理を見直すなら、まず一つの拠点・部門と、一つの月を対象に、次の順で確かめます。

  1. 判断と期間を決める。 追加受注、在庫、納期、設備投資のどれを判断する数字か。
  2. 固定費総額と単位負担額を分ける。 下がったのは支出か、割り算の結果か。
  3. 活動と成果の差を確認する。 増えた生産や対応件数は、販売・完了につながったか、在庫や未完了の仕事になったか。
  4. 制約となる工程と需要を確かめる。 忙しくした工程・担当は全体の出荷や完了を増やせる場所か。
  5. 利益と資金の差を説明する。 在庫、売掛・買掛、減価償却、設備投資、返済の影響を分けられるか。
  6. 根拠へ戻り、行動を決める。 未確定値を確認し、誰が何を変えるかを決める。

稼働率は、設備や人の能力の使われ方を知るための大切な情報です。その目標が在庫の積み増しや不要な作業を誘っているなら、KPIを意思決定に使える指標へ見直す方法と併せて、評価の仕方も見直します。

固定費を何個・何件で割るかに加えて、何が売れ、どこで仕事の流れが止まり、いつ資金が残るかを見る。そのためのデータと画面がそろうと、稼働率を上げることの意味を、具体的な経営判断へ戻せます。

この判断を、記録と仕組みへ落とし込む

自社の数字で確かめるなら、最初に「追加受注を判断したい」「在庫を減らしたい」など、一つの判断を選びます。その判断に使う売上・費用・数量を、どの帳票やシステムから取り、誰が更新し、いつ確定するかを整理します。項目を増やす前に、現在の記録と足りない情報の違いを確認することが大切です。

改善計画では、固定費・原価・工数・在庫の論点整理から、指標定義、独自ダッシュボード、会計と現場の業務をつなぐシステムまで扱います。管理会計・生産管理とデータ活用の支援内容をご覧ください。帳票・Excelの整理、データ連携、開発・導入までの進め方は、中小企業のIT化・DX支援で説明しています。「現場は忙しいのに利益や資金が残らない」「会計と現場で数字が合わない」といった場面から、ご相談いただけます。